一瞬・・・だった

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 垂直に立っていた巨木は、すでに角度70度ぐらいは倒れているだろう。まだまだスピードはゆっくりだ。 「・・・ない」  さっきの続きの声が聞こえた。誰かが『あぶない!』と叫んだようだ。誰にむかって?僕にむかって?作業員全員へに向けて?  巨木の倒れる角度が60度を切ったか?  黒い影が僕の視界を妨げ始める。それでもまだ、曇り空は見えている。  何かが降ってきた。目が痛い。  僕は目を一瞬閉じた。目に入ってきた物を避けようとして・・・。  それから何が起こったのか覚えていない。  最後に見た光景は、まるで巨大な怪物が掌を大きく開いて僕を叩き潰そうとしている光景のようだった。  それは、一瞬・・・だった。  耳を劈く轟音。僕の顔や頭、体に数え切れないほど何かが当たってくる。  体を激しく揺する振動。何かが潰れた音。  何が起こったのか。  ゆっくりと目を開ける。  目の前には激しい土埃が舞い上がっている。  その土埃の向こうで人影が動いている。 「大丈夫か?」 「おい!歩行者がいるぞ!」  そうか・・・。僕が目を開けたとき、この声で人影が近づいてきたと勘違いをしたんだ。
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