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「ただいまー。」 奥から、母の「おかえりーお疲れさまー」と、包丁を叩くまな板の音が聞こえてきた。 実家に着いて、玄関をあけると、和食の煮物のような美味しそうな匂いがしたせいで、彼が耳打ちする。 「ねぇ、今日の夕飯なんだろ?やっぱり、頂いてから帰ろうかな?」 送り届けたら、明日は早出だからと、すぐ帰宅予定だった彼が、予定変更を告げる。 「そうしようよ!せめてお茶くらい飲んでからにしたら?」 そう言って、リビングに行くと、平常の母をみて、今頃になって報告漏れを思い出す。 「あっ!連絡するの忘れてた! なんで驚かないの? そのまま入院だって言ってたのに。 帰ってきたからビックリしなかった?」 「なんでじゃないよー!ちゃんとヤっちゃんに連絡貰いましたよ!」 「ヴ!ごめん…。そうだったの?」 ヤっちゃん、とは、母が婿を呼ぶ通称だ。 彼の名前の頭文字をとって、勝手に母が呼んでいる。 私でも、そう読んだことがないのに、当たり前のように呼んで、呼び慣れていて、なんかズルいと感じてしまうが、そこは触れないでいる。 母が、そう呼ぶせいで、父も、離れて暮らす姉も、姉の夫の義理兄までも、家族全員が、そう呼んでいるから、もう止められない。
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