163人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまー。」
奥から、母の「おかえりーお疲れさまー」と、包丁を叩くまな板の音が聞こえてきた。
実家に着いて、玄関をあけると、和食の煮物のような美味しそうな匂いがしたせいで、彼が耳打ちする。
「ねぇ、今日の夕飯なんだろ?やっぱり、頂いてから帰ろうかな?」
送り届けたら、明日は早出だからと、すぐ帰宅予定だった彼が、予定変更を告げる。
「そうしようよ!せめてお茶くらい飲んでからにしたら?」
そう言って、リビングに行くと、平常の母をみて、今頃になって報告漏れを思い出す。
「あっ!連絡するの忘れてた!
なんで驚かないの?
そのまま入院だって言ってたのに。
帰ってきたからビックリしなかった?」
「なんでじゃないよー!ちゃんとヤっちゃんに連絡貰いましたよ!」
「ヴ!ごめん…。そうだったの?」
ヤっちゃん、とは、母が婿を呼ぶ通称だ。
彼の名前の頭文字をとって、勝手に母が呼んでいる。
私でも、そう読んだことがないのに、当たり前のように呼んで、呼び慣れていて、なんかズルいと感じてしまうが、そこは触れないでいる。
母が、そう呼ぶせいで、父も、離れて暮らす姉も、姉の夫の義理兄までも、家族全員が、そう呼んでいるから、もう止められない。
最初のコメントを投稿しよう!