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「 ……そんなこと」
「解るよ。……自分の身体だから。僕が死んだら………いや、なんでもない。ごめんね?」
─── 伏し目がちに呟き、次いで何かを言いかけた彼が二、三回首を左右に振り、憂いを帯びた瞳で優しく笑う。
その笑顔が心に冷たい杭のように突き刺さる。
それ以上は何も言えなくて、気が付けば私の目から涙が溢れていた。
彼は右手でガラス細工に触れるかのように、優しく私の頬を包みこんで愛おし気に指の腹で涙を拭ってくれた。
「……泣かないで、お花見の約束は出来ないけれど、これだけは約束する。
『僕はキミの哀しみの涙なら何度だって拭ってあげるから』
だから、キミは笑顔で居て?僕はキミの笑顔が大好きなんだ」
そう告げてくれた彼の頬はいつもより蒸気していてほんの少し朱が指していた。
──
───
そしてそれから幾月か経ち、彼の命は本当に春を待たずに、雨であまりにも呆気なく散りゆく桜の花のように儚く散った。
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