櫻の巨木と青年の"シタイ"

8/12
前へ
/12ページ
次へ
淡い桜の花弁がふんだんに散りばめられた白い便箋。 なにより驚いたのは香りだ。 ─── 懐かしい………。 瞳を閉じ、唇が緩い孤を描く。 冷たく凍りついた心が少しだけ溶けていく気がした。 私の枯れ果てていたはずの涙も頬を伝う。 ──── 私が愛した彼の………独特の薬品混じりの彼のシャンプーの香りがする。 震える視界で便箋に目を通す。 『僕が居なくなって、キミがどうしても辛くなったその時は、あの櫻の巨木を訪れて。あの約束を果たしてみせるから』 ─── 彼がこの世を去る間際に残したのだろう。 筆跡は薄く、お世辞にも綺麗と言えない、弱々しく震える文字で書かれているソレを握り締め、嗚咽を漏らす。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加