3人が本棚に入れています
本棚に追加
さいきん死ねなくてねぇ
「さいきん死ねなくてねぇ。」
奇妙なことをいう。
「おちても死なないんだ。」
わけのわからないことをいう。
「どうなっちまったんだろう。」
どうなってしまったのか、こちらがききたいところである。
「いやねぇ、ゆめでさぁ。」
ゆめ?
「ああ、夢さ。」
なんだ、夢か。
「夢みるでしょ、たいがいおんなじような夢をみる。で、さ、どこかたかい崖みたいなところからおっこちるんだ。」
おちるっていったのはそのことか。
「そう。で、おちるじゃないですか。ふつう、おっこちるまえに目がさめるってきくじゃない。」
そうはきいたことがないのだけれど。
「オレさ、さいごまでおちきるっていうか。顔がぐにゃってなるまで記憶がつづくんですよ。」
たしかにそういうはなしはきいたことがない。
「痛くはないんだよ。でも痛がってるわけで。その絵がみえるわけ。そこでおわるんだなぁ。」
はて?
「生と死のさかいっていうじゃない。ないね。オレはそうおもうけれど。」
じゃぁ、なにがあるのだろう。
「ギリギリってのがあって、そのギリギリがいわば日常なのだとおもう。」
わたしだけかもしれないが、えてしてひとは、わけがわからなくなると、とつぜん、哲学および哲学的という文字をおもいうかべる。
わたしだけなのかもしれないけれど。
哲学的だ。
そう、わたしがさかいくんにかえしたことばはまさに、
哲学的、であった。
最初のコメントを投稿しよう!