ヌリツケル

5/6
前へ
/239ページ
次へ
そう言うと、その家族はポカンとした顔で、私を見た。 しまった。今の私はのっぺらぼうだった。 「誰って、お母さん。何言ってるの?」 笑いながら若い娘が言う。 「お前、寝ぼけてるのか?」 しらない中年の男が言う。 これは私の家族ではないし、この人たちは、何故こののっぺらぼうの顔を見て何も言わないのだろう。 何かがおかしい。 よく見れば、この家は誰の家なのだ? これは夢なのか? 家族が出掛けたあと、私は手がかりを得ようと、パソコンを開いてみた。 すると、そこには、いつの間にか小説が投稿されており、それに対してすぐに批判がされてあった。 その名前は私のハンドルネームだった。 こんなことは書いた覚えもないのに。 小説はそこそこ面白いものだった。しばらく夢中になって読んでいた。まるで自分が書いたような気がしていた。それに対して口汚く罵るコメントが書いてある。 「まるで二流小説」 二流で当たり前ではないか。素人なのだから。 一流なら、プロになってるっつうの。 私は、そこで初めてはっとした。 そうか。きっとこんな気持ちで、作者は私のコメントを眺めていたに違いない。 顔の見えない者による心ない批判。 もしかして、私は、それでのっぺらぼうになっちゃったの?     
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加