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診療カウンセラーも嘘、富樫家に提出した履歴書の経歴も嘘、本当の目的ももちろん言えない、嘘ばかりの僕。
その時、璃桜が突然唇を震わせ、懸命に何か言おうと口を開けた。
「――……っ、……、……!」
掠れた吐息のようなものしか出ないけれど、その唇の動きで僕には言葉が読める。
「そ、う、すけ……? 僕の名前を言おうとしてくれてるの?」
泣き出しそうな顔でうなずく璃桜。あまりのいじらしさに、僕は璃桜の震える肩に手を伸ばして抱き寄せてしまった。
「璃桜……さん。僕は、君が大好きです」
それだけが真実。嘘偽りのない、素のままの僕の心。
突然の告白に目を見開き、それでも僕の胸の中にいてくれる璃桜が愛おしくも哀しい。
確かに璃桜の力は不思議だ。
でもこんな風に立場も任務も押し流して彼女に心惹かれる事の方が、僕には余程不可思議な力のように思える。
「僕がいつかきっと……璃桜から消えた声も笑顔も取り戻してみせるから」
満開の桜の下、胸の中で身じろぎもしなかった璃桜が……僕のシャツの背中を遠慮がちにつまんだ。
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