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信じられない思いで振り返ると、壊れそうな瞳の璃桜が僕の胸元を掴んで何度も首を横に振っている。
「璃桜……。今そうすけって、呼んだ……?」
聞き取り難くても、どんなにか細い声だとしても、璃桜がこれまでの呪縛を越えて自分を呼ぶ。
ただそれだけの事が、こんなにも胸を震わせる。
ところが、璃桜は必死の形相で僕の背中を押し、門脇の木戸から屋敷の外へ追いやってしまった。
「な……璃桜? どうしたんだ、一体……!」
目の前でバタンと閉められた小さな木戸。
訳がわからず呆然としていると、突然後ろから物凄い力で腕を引っぱられた。
「ぅわああっ!?」
「しいっ! 蒼介、俺だ。いいから早くこっちに来い!」
乱暴に僕を細い路地へと引き込んだのは、富樫の組の方に潜入していた筈の大先輩、安田刑事。
やがて富樫家の表門からリムジンが出てきた。チラリと見えた後部座席には、富樫と並んで座る璃桜の姿。
「璃桜……? ヤスさん! 一体何事ですか」
「お前ヤバイんだ蒼介。今回はここで手を引け!」
暗い路地の陰で、僕は愕然とする。
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