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紙面に書かれた彼女の細い文字に、僕は思わず眉をひそめた。
──最初に見たのは父が運転していた車が何かにぶつかる場面でした。その三年後、父は事故死。私は人の死に際を先に見てしまうんです。──
この富樫家に僕が『心療カウンセラー 橘 蒼介』というネームプレートを胸に付けて通うようになって二週間。
やっと彼女が家に引きこもっている理由を打ち明けてくれたのはいいが、これはちょっと突拍子もない。
「……璃桜さん。つまり誰かに会うと、その人の死ぬ瞬間が視えてしまう。だから外には出たくないっていう事?」
璃桜の前下がりの黒髪が縦に揺れ、彼女はまた寂しげに目を伏せてしまった。
白磁の頬に影を落とす長い睫、薄く色づく小さな唇。瑠璃色の桜とはよく名付けたもので、璃桜の全てはどこか青く儚い。
そんな彼女に僕は初日から心を奪われ、自分の仕事も立場も忘れそうになるのを必死で抑える毎日だった。
「よく教えてくれたね。……もしかして、僕のも視た?」
僕はメモ帳を捲り、次の新しいページを差し出した。
この富樫 璃桜という娘は言葉が話せない。その為、僕の質問の答えはいつも紙面に綴られる。
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