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時を止めたように桜を見上げていた璃桜が、おもむろにポケットからメモ帳を取り出して文字を書きつけた。
【すごくきれいです。やっぱり桜はこういうピンク色じゃなきゃだめですね】
「え? ピンクじゃない桜なんてあるの」
彼女の言葉を見て、僕は眉をひそめる。すると璃桜はまたメモにサラサラと自分の言葉を綴る。
【私のような瑠璃色の桜では、人の気持ちをこんな風にしあわせにできない】
「…………!」
その文字に胸が斬りつけられたように痛み、咄嗟に僕は紙面を引き千切ってしまった。
「そんな事ない! 瑠璃色の桜は……君は!」
その先を言いよどむ僕に、璃桜が目を丸くしている。
「だから……その。君と、僕は同じ色だから……」
自分でも何をどう伝えていいのかわからなくて、それでも僕は慌てて彼女のメモ帳にペンを走らせた。
【蒼介 璃桜】
「……ほら。僕たち二人とも青色。一緒だよ」
彼女がメモ帳に落としていた視線を僕に向ける。戸惑うような何かを切望するような濡れた瞳。
「ピンクの桜はもちろん綺麗だけど、でも僕は瑠璃の桜が……」
やっぱりこれ以上は口に出来ない。
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