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春の夕焼けが綺麗に空をオレンジ色に染めていた。
そのオレンジを受けて輝く看板の斜め下のショーウィンドウの中には、なんて言うのか?機織りをする時に使うのか?定規のような木の板に、糸が巻き付けられていた。
淡い桜色の糸の隣には、濃いピンク…八重桜の花の色だ。じゃあ、その隣の黄緑色は、桜の若葉か…緑色の糸もある。
そして、それらを覆うように、薄い水色の布が壁に貼られていた。
ああ、きれいだな。
お花見みたいだ。
心が穏やかになって、自然と笑みが浮かんだ。
その瞬間、お店の中の人と目があった。
綺麗な桜色の七分丈カットソーにスキニージーンズ。濃い緑色のエプロンをつけたその人は、おれをじっと見るとパアッと笑顔になった。
ドキッとしたおれの元に、春のつむじ風みたいにすばやく店の外に出てきて、話しかけてきた。
「こんにちはっ!そんなところに立っていないで、入って」
慌てるおれを急かして、自転車を停めさせると、背中を押すようにして店内に入れた。
「保は二階よ、その奥の階段を上ってね」
「コーヒー持ってくるわねー」と楽しげに言うと、その人は春風のように爽やかに一階の奥に姿を消した。
「あれ?楠木…くんだよね」
階段の上から、新しいクラスメイトが声をかけてきた。
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