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初めて坂崎手芸店に足を踏み入れた時、雑多な色の洪水と細々とした物の多さに圧倒された。
圧倒されたケド、嫌いじゃない空間だった…ほっとする匂いがしたからかな?
少し湿気を帯びた、優しい布の匂いがした。
コーヒーを持ってきたお姉さんは、自分の早とちりが分かると、カラカラと朗らかに笑い、それをたもっちゃんが慈愛に満ちた目で見ていた。
せっかくだから、ゆっくりして、ショーウィンドウを見ていたから、綺麗な糸は好きでしょう…そうだ、刺繍でもする?
お姉さんの言葉におれもたもっちゃんも目を丸くしたケド、業者さんが置いていった試供品を試してみて、初心者が、30分でできるって言うのよ、ホントかしら、という声に押されて、やってみた。
クリームがかった布は、すかすかの織り目で、穴が規則的に開いている。
「えっと、坂崎…この布、不良品?」
思わず聞いたおれに、面白がっている声で教えてくれた。
「ホントに初心者だなー、まっ普通そうだよな。これは、クロススティッチ用の布だから、これでいいんだよ」
たもっちゃんは、慣れた手つきで刺繍糸を刺繍用の先が丸い針に通すと、刺繍糸をバツの形に布に刺していった。
「こうやって…ほら、図案通に絵を仕上げていくんだよ」
「…面白いのか?」
意義がわからなかった。
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