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急いで、菖蒲の残りを口に入れると、うわあ、やっぱ、絶妙なバランス!
「…旨いな、中の白餡と抹茶がすごく合う」
「お代わりもあるわよ、ちょっと不恰好だけど」
下からちょうど上ってきたお姉さんが、クスクス笑いながら言った。
この人の笑い声は、ホント、人の気持ちを和ませる。
たもっちゃんは、嬉しそうにお姉さんを見ていて…薄々気づいていたケド、こいつ、ゼッテーシスコンだ。
「うっわ!」
おれの考えを他所に、たもっちゃんが驚いた声を出した。
「見て!見て見て、廉…うけるー」
たもっちゃんがおれに見えるように菓子皿をこちらに向けた。
中には、肥満体の鯉のぼりと、チューリップみたいな菖蒲、それから、黒い手裏剣か?
「もーう、そんなこと言わないの、可哀想でしょう♪」
そう言いながら、お姉さんもケラケラ笑っている。
「商店街の和菓子屋さん、上仙堂の見習いが作ったのよ、坂崎さんなら、身内の恥も見せられるからって、おばあちゃんが貰ってきたの」
「ああ、たっちゃんのか…捨てるのもったいないもんな」
「頑張っているのよ、初めは皆下手くそでも、本物を見て、努力して、変わっていくのよ」
お姉さんの言葉は、そのまま、情緒音痴のおれに向けられたみたいで、もやもやした気持ちが楽になった。
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