坂崎手芸店にようこそ

7/13
前へ
/43ページ
次へ
 急いで、菖蒲の残りを口に入れると、うわあ、やっぱ、絶妙なバランス! 「…旨いな、中の白餡と抹茶がすごく合う」 「お代わりもあるわよ、ちょっと不恰好だけど」  下からちょうど上ってきたお姉さんが、クスクス笑いながら言った。  この人の笑い声は、ホント、人の気持ちを和ませる。  たもっちゃんは、嬉しそうにお姉さんを見ていて…薄々気づいていたケド、こいつ、ゼッテーシスコンだ。  「うっわ!」  おれの考えを他所に、たもっちゃんが驚いた声を出した。 「見て!見て見て、廉…うけるー」  たもっちゃんがおれに見えるように菓子皿をこちらに向けた。  中には、肥満体の鯉のぼりと、チューリップみたいな菖蒲、それから、黒い手裏剣か? 「もーう、そんなこと言わないの、可哀想でしょう♪」  そう言いながら、お姉さんもケラケラ笑っている。 「商店街の和菓子屋さん、上仙堂の見習いが作ったのよ、坂崎さんなら、身内の恥も見せられるからって、おばあちゃんが貰ってきたの」 「ああ、たっちゃんのか…捨てるのもったいないもんな」 「頑張っているのよ、初めは皆下手くそでも、本物を見て、努力して、変わっていくのよ」  お姉さんの言葉は、そのまま、情緒音痴のおれに向けられたみたいで、もやもやした気持ちが楽になった。  
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加