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「あら、保ったら…」
「いや、俺は楽しいけどね、姉さん知らないだろう、廉は勉強できて、何でも器用にこなすんだよ、ガッコじゃ一目も二目も置かれているんだ…俺くらいだよね、廉のこーんなぶっきー知っていんの」
たもっちゃんが楽しそうに言った。
お姉さんが、やれやれって顔をして、やっぱり楽しそうに笑ってくれる。
「…実は、おれも知らなかった」
思わず呟くと、たもっちゃんとお姉さんが顔を見合わせて、同時に笑い出した。つられて、おれも笑った。
なんか、高校に入ってから、すごくよく笑っている気がする。
夕方からバイトだった。
幸せな気持ちで施設に帰ったら、門の前に理子が立っていた。
夜9時過ぎると、施設の正門は締まる。申し訳程度の門柱の灯りの下で、頼りなげな肩が仄かに明るかった。
「おかえり」
「…どしたの?門が閉まってても、知ってるだろう、裏門は開いてるぞ」
おれの言葉に答えず、理子はゆっくりとおれの肩に顔を埋めた。
「理子?」
思わず問いかけたおれの言葉が、温かい春の夜に吸い込まれていった。
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