一人では生きていけないって、わかっていた

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 「なあ、ついて行くぞ?高校の入学式なら、保護者の参加も多いだろう…」 「来ない保護者も結構いますから、大丈夫ですよ」  おれのブレザーのほこりを取るように、手のひらで腕を優しく払う園長に、おれは精一杯笑った。  あの時もそうだった。  おれが養護施設の子だって分かったとたん、他の子が妙にそわそわして、何となく遠巻きにされた。  その空気がいやで、でもどうしていいか分からなくて、歯を食いしばって帰ってきたおれの腕を、優しく払ってくれた。 「辛いな、廉…」 「だいじょーぶですよ、せんせー」  傷ついて泣きそうな目をしていた先生の顔を見て、おれは精一杯笑ったんだ。  優しい園長先生をかなしませたくない。  ガキが、健気に思い詰めて、笑った。  それから、短い人生経験を総動員して、おれは自分がクラスで楽になれるにはどうしたらいいか、トライ アンド エラーを繰り返しながら模索した。  養護施設では、心配をかけないように、元気に振る舞う。  学校では、無視できないように適度に自分を目立たせ、受け入れてもらえるようにした…低学年の内は運動能力が効いた。高学年になると、それに学力と女子受けがあれば、無敵だった。  なんだ、結構みんな単純なんだなって、上手くいったらバカらしくなった。  
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