一人では生きていけないって、わかっていた

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 だから、中学に入ったら、中学デビューと称して、一匹狼を装った。  養護施設では、力を抜いて適度に元気に、適度に反抗した。  その方が、中学生らしいから。  心配そうだったけど、おれの笑顔を見て少し気が軽くなった表情の園長先生に手を振って、おれは高校の入学式に向かった。    さて、どうするかな…。  自転車をこぎながら、考えた。これからの三年間、どういうキャラで行くか。  同じ中学から来る奴も多いだろうから、豹変はできない。  でも、理子がいなくなって、胸がスースーしているから、一匹狼も、淋しいかな…分かっている。  人は、一人では生きていけないって。  結局、おれはキャラ変をしなかった。いや、正確にはできなかった…同じクラスに知り合いが沢山いて、そいつらが何故か、おれの紹介をして、フォローにまで回ってくれたから。  「あーあ」  入学して一週間、一人で自転車をこぎながら、ため息が出た。  ある意味自業自得だが、ここまで一人だと気が滅入る。  せめてもの気分転換に、大通りから細道に入り、小さな商店街を走った。  あっ、なんか、レトロでいいな、この店。大きなガラスのショーウィンドの中の豊かな色彩に惹かれて、つい自転車を止めた。 『坂崎手芸店』  入り口の上に、年代物の木の看板が上げられている。
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