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縁側の淵から望むソメイヨシノは、智が言っていた通り、壮大で美しい。
私の隣に腰掛けたおじいさんが「すごいでしょう」と満足げに微笑んだ。
「うちはトイレもボットンで古いんだけども、部屋は沢山あります」
智のおじいさんは、私のキャリーバッグにチラリと目をやって、思い切ったように切り出した。
「もしも、あんたが行くところないのだったら、しばらくここに住んでみんかね」
「……え」
「いや、私が仕事に行くと、サトシが寂しがるもんだから」
「サトシ?」
「あそこ」
指をたどった先に、手作りらしき犬小屋があり、中で白い大きな犬が昼寝をしていた。
「智が命懸けで守ったと、佐川さんに教えてもらったんです。それで公園にいたのを拾ってきてね」
智のおじいさんは、私をじっと覗き込む。
「あんたが新しい住処を見つけるまででいい。どうかね」
私はサトシを見つめた。
小さかったサトシは、私が時間を止めている間に大きく成長していた。
「よろしくお願いします」
私が頭を下げると、おじいさんは「はあ、寿命が縮んだ」と智みたいに笑った。
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