第1章

28/30
前へ
/30ページ
次へ
 縁側の淵から望むソメイヨシノは、智が言っていた通り、壮大で美しい。  私の隣に腰掛けたおじいさんが「すごいでしょう」と満足げに微笑んだ。 「うちはトイレもボットンで古いんだけども、部屋は沢山あります」  智のおじいさんは、私のキャリーバッグにチラリと目をやって、思い切ったように切り出した。 「もしも、あんたが行くところないのだったら、しばらくここに住んでみんかね」 「……え」 「いや、私が仕事に行くと、サトシが寂しがるもんだから」 「サトシ?」 「あそこ」  指をたどった先に、手作りらしき犬小屋があり、中で白い大きな犬が昼寝をしていた。 「智が命懸けで守ったと、佐川さんに教えてもらったんです。それで公園にいたのを拾ってきてね」  智のおじいさんは、私をじっと覗き込む。 「あんたが新しい住処を見つけるまででいい。どうかね」  私はサトシを見つめた。  小さかったサトシは、私が時間を止めている間に大きく成長していた。 「よろしくお願いします」  私が頭を下げると、おじいさんは「はあ、寿命が縮んだ」と智みたいに笑った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加