第1章

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 ゴムのすり減ったパンプスが、コツコツと金属音を闇に響かせる。  3月半ばといえど、夜はまだ冷える。寒空を仰いでトレンチコートの襟をきゅっと持ち上げた。  私と智が過ごしてきた日々は、特筆すべきモノなんてひとつもなく、平坦で真っ直ぐな道のりに、所々小さな石ころが転がっていて、それを避けたり、つまずきそうになったりしながら、ただゆっくりと進んでいくようなものだった。ちょうど、桜塚公園へと続く、この細い路地のように。
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