第1章

7/30
前へ
/30ページ
次へ
 私の両親は、私が小学生の時に離婚している。 「結婚式なんかしたらダメよ。別れた時に恥ずかしいから」  離婚直後、母は毎日のようにそう吐き捨てた。  東北の片田舎で、見栄っ張りの母は、それこそ村を上げて盛大に挙式をしたらしかった。  離婚が世間に知れたとき「あんなにすごい式をしたのにね」と、近所で噂され、怒り狂った母の形相は今も忘れられない。 「結婚するならひっそりしなさい。いつ別れてもいいように」  母は、事あるごとにそう話す。父の悪口と共に。  離婚の際、二人の間にどんな契約が交わされたのかはわからない。父は家を出て、私は母と一緒に父の建てた家に住み続けた。二人の生活費は、月々父から現金書留で送られてくる。母が働かないでも人並みの生活が出来るほどの金額を、父は毎月払い続けているのだ。  私は、父の悪口を言いながら、父の財産でのうのうと暮らす母の心理がわからなかった。  母の生き方を好きではない私が「結婚式はイケナイもの」と信じるなんて矛盾だと思うけれど、どうしようもなかった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加