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「遅い」 仕事帰り。 最寄駅からぶらぶらと夜空を見上げながら歩いていたら、聞きたかった声がした。 いつも別れる曲がり角。 チョコレート色のロングコートに身を包み、寒そうにポケットに手を入れて立っている。 一週間ぶりの君の姿。 「え……? 何で? っていうか、遅い?」 残業をしたわけじゃない。 寄り道をしたわけでもない。 駅前のコンビニに一瞬寄ろうかと思ったけど、欲しいものが思いつかなかったからそのまま歩いてきたんだ。 まだ、外灯はついていないし、宵の明かりが残っている。 条件反射で時計を確かめたら、やっぱり夕飯時にもなっていない。 「遅いよ。桜が咲いたから、返事をしにきたのに」 もたれていた電柱から身を起こして、君が情けない顔で笑った。 「なんてね、ホントは自信ないんだけど。でも、前に言ってたから」 顔を覗き込むように首をかしげて、あってるよね? と、目だけで君が問いかける。 「……覚えていてくれたんだ?」 「だから、自信なかったって言ってるじゃん。でも、あってたんだ」 ほぅ、と息をついて、ホッとしたようにそらされる視線。 ねえ、自信を持っても、いいデスカ? っていうか。 もしも、芳しくない答えだったとしても、なりふり構わずに粘ってしまいそうなのだけど。 それくらい、嬉しいのだけど。 「桜は、ソメイヨシノじゃ、ないんだよね?」 「そう。彼岸桜」
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