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自信なさげな君の問いかけに、僕はうなずく。
自分の出身校に植わっていたのは、彼岸桜。
だから、入学式のシーズンじゃなくて卒業式のシーズンに咲く。
そんな話をしたのは、出会って間もない頃。
ホントに他愛ない、新入社員の頃に花見の場所取りをしていたとき。
桜に種類があるっていうのを知らなくて、君は目を丸くしていたっけ。
「ちゃんと、覚えていたよ。だから、今、返事をしにきた」
今度は逃げないで聞いてくれる? と。
君が困ったように笑うから、返事はまだなのに、思わず笑顔になってしまったんだ。
「サクラサク」
いたずらっ子のように呟いて、君が僕を抱きしめた。
「ねえ、好きだよ」
「好きだ」
「キスしてもいい?」
「やだ」
「したい」
「何を」
「だからキス」
ぎゅうと僕を抱きしめてから解放して、君は顔を覗き込んで「何を連想したの?」ときいてくる。
「うるさい」
「部屋にいってもいい?」
「うち?」
「こっちでもいいけど。ちゃんと話をしよう。それから、キスがしたい」
晴れ晴れとした顔で笑う君の向こうを、ふごふごと鳴きながら浮かれた猫が歩いて行った。
「ほら、猫も愛を確かめ合うんだってさ」
ねえ、春だね。
寒さは彼岸まで。
もう、春だね。
桜が、咲いたよ。
<END>
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