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「離せ! おい、お前どんな手つかったんだよ! 枕じゃねえだろうな!」
「東!!」
「卑怯だぞ! お前らしか使えないじゃねえかよ!」
卑怯?
東さんの言った言葉に、僕は振り返り首をかしげた。
引き離そうと触れていた菊地の体に、緊張が走るのがわかった。
「そんな手使ってないし、中田さんはそんな人じゃない」
一言も反論しなかった菊地が、低い低い声で言った。
「どうだか。俺らには理解できないこと、平気でできんじゃないの?」
「勝手なこというな」
「東、言いがかりもほどほどにしておけ。佐倉、菊地を連れてけ」
「あ、はい」
まだ言い足りないように暴れている東さんを置いて、僕は菊地の腕を引き、階段室へ向かう。
東さんの口から出た『中田さん』というのは、もう退社した先輩だ。
確か東さんの一期上で、菊地の指導員だったように記憶している。
枕だとかいってたな。
東さんには使えない、とも。
ずっと無視していた菊地が、不快をあらわにした。
菊地が、指導員だった人に懐いているというのは、同期の中でも有名な話だった。
騒動の中でこぼれていた情報の断片をつなぎ合わせれば、なんとなく見えてくるものがある。
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