花色タバコ

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小さな手がまだアクリルの板を叩いている。 桜色の箱をしたタバコは素知らぬ顔で鎮座する。 「じゃあ、じゃあこれ何才だったらいいの?」 「二十才を越えたら」 「にじゅっさい?」 「そう、二十才」 「あたしのお兄ちゃんもうすぐにじゅっさいになるよ! にじゅう!」 「そうなんだ?」 「うん! これほしい!」 「これはねぇ、売れないの」 かたかた揺れるアクリルケースに神代曙が映っていた。 わずかにだけ早咲きの桜は染井吉野のつぼみを尻目に、濃い花色を枝いっぱいに咲かせている。 「あぁ、こんなとこにいたの? 今日はタバコは買わないよ」 くっきりと女性の声が響いて、 私は顔を上げた。
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