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描き始めてから一時間。
ようやく絵が完成した。
桜の前にいる、車椅子に乗った少女。
久しぶりにしては、よく描けたのではないだろうか。
僕は彼女のところに、スケッチブックを持っていく。
彼女の肩をトントンと軽く叩く。
こちらを向いたが、やはり目を合わせてはくれなかった。
「書きあがったので、見てもらえませんか?」
そう言うと、彼女は困ったような顔をした。
ーーごめんなさい。
そう動く唇を見て、僕は首を傾げる。
なんで謝るんだろう。
その後も、彼女の言葉は続いた。
理解するのに苦労したが、要するに彼女は、最近事故にあったらしい。
そして、視力を失った。
ーー目が見えないから、あなたの絵を見ることはできないんです。
悲しそうな表情をする彼女。
事故にあった際、脳の視覚神経が傷つき、失明してしまったらしい。
光のない世界というものは、僕にはとても想像できないものだ。
これで分かった。
ずっと遠くを見つめていたのも、僕と目を合わせてくれなかったのも、目が見えなかったからなんだ。
ーー本当、絵を描けるあなたが羨ましいです。
弱々しい笑みを浮かべていう彼女。
そんな彼女に、僕は言った。
「僕も、君が羨ましい。」
キョトンとする彼女。
「僕は、耳が聞こえないんだ。」
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