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ーーちょっと、熱出しちゃったんだ。
その翌週、彼女はマスクとマフラーをして僕を待っていた。
先週は体調が悪くて、来たくても来れない状態だったらしい。
嫌われてなかったことに、僕は内心ホッとする。
ーーごめんね。この間泣いたの、飼ってた犬が死んじゃったからなの。言ったら多分泣いちゃうから、黙ってたんだけどね。
へにょりと眉を下げる彼女。
あの涙は、僕のせいではなかったようだ。
正直、もう会ってくれないんじゃないかと、ものすごく不安だった。
けど、そんな心配は無用だったようだ。
「その子、なんて犬種なの?」
ーーえ、えっと……ゴールデン・リトルバー。
ああ、ゴールデン……ん?
「ゴールデン・レトリバーじゃない?」
ーーあ、そ、そうそう、レトリバー。
僕は、その様子がおかしくて吹き出した。
少し怒ったような顔になる彼女。
それを宥めながら、僕たちは、いつものようにおしゃべりを始めた。
それから数ヶ月。
また、春が訪れた。
彼女と出会ってから、そろそろ一年が経つ。
僕は、今日もこの公園を訪れた。
桜の木の下まで、ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
そして、そこで僕を待つ彼女。
「えっ……!」
僕は、その後ろ姿を見て驚く。
彼女は、車椅子には乗っておらず、自分の足で立っていた。
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