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僕に気づいたのか、彼女はこちらを振り返った。
その顔を見て、僕はまた驚いた。
僕を見ている。
彼女の目が僕を見て、優しく微笑んでいる。
……初めて、彼女と目が合った。
彼女が僕に向かって、大きく手を振った。
そして、
ーーバイバイ。
その唇の動きを読み取ったとき、全てを理解した気がした。
瞬きを瞬間、彼女の姿は消えてなくなっていた。
僕は彼女の名前を叫び、桜の木まで走っていく。
わかっていた。
名前を呼んでも、彼女は現れない。
いくら探しても、彼女は見つからない。
僕はいったん気持ちを落ち着ける。
深く息を吸ったあと、僕は近くの病院に向かって駆け出した。
受付に行って、彼女の病室を訊く。
教えてもらうと、すぐにその病室に向かう。
ずっと前から、疑問に思っていた。
ただの事故なはずなのに、彼女はずっと車椅子に乗り、入院していた。
ただの事故なら、もうとっくに退院して、リハビリも終えてるはずだ。
目が見えないという理由だけで入院するのは、考えられない。
それなのに、ずっと入院していたのは、きっと、彼女がーー
僕は、病室のドアを勢いよく開けた。
そこには一つのベッドと、その横に立つ二人の人物がいた。
そして、ベッドの上に横たわる彼女。
ーー君かい? 娘が世話になっていた男の子は。
彼女の父親と思われる人物が、そう言ってきた。
僕は頷く。
彼女の母親は、顔を覆って静かに泣いていた。
ーー会ってやって。
彼女の父親がそう言うので、僕はベッドに近づく。
そこでは、彼女が安らかな顔で眠っていた。
ーー『サクラ、サクラ、サクラ……。』ってずっと言ってたんだけど、どういう意味かわかるかい? 娘のことじゃないみたいなんだけど。
サクラ……。
「はい。」
僕の目に、涙が滲んできた。
彼女の手を握り、ベッドに顔を埋める。
それから、僕はずっと泣いた。声は出ているのかどうかわからない。泣き叫んでいるのか、静かに泣いているのか。
でも、ものすごく悲しんでいるというのは、よくわかった。
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