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「…まだ何かあんのかよ…」
ボヤキながら振り向くと、そこには夢路と同年代の長身の若いスーツ姿の男性がいた。
「―――――っ」
彼は夢路を見るなり大きく目を見開いて驚いた顔をした。
「何?もう話すことねーんだけど」
固まっていた男性は、夢路の言葉にはっと我に返った。
「…お前…俺が分からないのか?」
「は?」
「俺だよ。近衞だ」
「…‥…え?」
夢路は警察に知り合いもいなければ、この男の名前にも容貌にも全く覚えがなかった。
「あの…誰かと間違えてるんじゃあ…」
そう言いかけた夢路は突然距離を縮めてきた男性にギョッとする。近衞と名乗った男性は夢路の両肩をガッと掴み、顔を近づけて来た。
「お前夢路だろ?」
「……そうだけど」
どうやら彼の人違いではないらしい。彼は夢路のことを知っているようだが、夢路には何が何やら分からなかった。
「せっかくアメリカから帰って来たのに…なんで…」
近衞はそう苦々しく呟き、眉間に皺を寄せて悲しみと苦しみが入り混じったような表情をしていた。
近衞が夢路の肩を掴む力が一層強くなり、思わず「いてっ」と声に出ると、近衞はビクリと震えて肩から手を放した。
その隙を見逃さずに夢路は力いっぱい彼を押しのけて、その場から走り去った。
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