② 雪路

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夢路は紙袋を抱えてタクシーから降りて病院に入ると、慣れた足取りで弟のいる部屋へ向かった。 扉をノックして中に入る。そこには自分と全く同じ顔をした弟が、頭に包帯を巻いて左腕に点滴をしてベットに横になっていた。 「よぉ雪路。体調はどうだ?」 夢路がベットの脇の椅子に座ると、雪路はゆっくりと兄を見た。 「今日は調子いいよ。それよりずいぶん遅かったね」 電話ですぐ行くと言ってから大分時間が経ってしまっていることに、雪路の機嫌が少し悪そうだった。 「それがちょっと訳があって…」 夢路は申し訳なさそうに紙袋を出す。それをみた雪路は驚いた顔をした。 「今日雨なんて降ってないのになんでびしょ濡れなんだ?」 「実は…」 爆発事件の後犯人扱いされて足止めをくってしまったことを説明した。 「はぁ…兄さんは相変わらず面倒ごとに巻き込まれるのが好きだな」 「別に好きで巻き込まれてるんじゃねぇっての!」 「まぁフィギュアが壊れてないならいいよ。そこに飾っといて」 「へいへい」 呆れたように雪路に言われて、夢路はフィギュアを早速ベット脇に飾ってやる。長く過ごしている個室はすでに雪路の私物で溢れていた。壁にはアニメのポスター、ソファーにはアニメキャラの縫いぐるみ等々。見るからにオタクの部屋で、とても病院とは思えない。 「そういや近衞って刑事に話しかけられたんだけど…。お前知ってるか?」 「…‥近衞?」 弟は一瞬思案した後、首を左右に振った。 「ううん、僕は知らないな。兄さんの知り合いなの?」 「俺は全然知らねぇんだけど、向こうは俺の名前知ってたんだよな…」 「じゃあ大学時代に同じサークルだった人とか?兄さん何個か掛け持ちしてたし、目立つから大学でも有名人だったから知ってたんじゃない?」 「ん~なんか…そんな軽い付き合いの雰囲気じゃなくてさ…」 夢路が知らないと分かった時の近衞の傷ついた表情が頭から離れなかった。何か申し訳ないことをしてしまった罪悪感に襲われる。
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