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「兄さんはナルシストで自分本位で基本他人になんて興味ないから忘れるのも仕方ないんじゃない?」
「お前…結構酷いこというな…。ん?」
夢路は弟の点滴の刺さった左手にうっすらと痣があるのに気付いてそこに触れた。
「どうしたんだ?この痣」
「あぁ…看護士さんがモノを落として腕に当たったんだよ。大した痛みもないし大丈夫だよ」
「またあの新人看護士か?」
夢路の問いに、双子の弟は苦笑いで答えた。
「ほら、もうこんな時間だし帰らないと」
話をそらすように雪路は時計を見た。時計の針はもう7時を指していた。
「路代にもよろしく言っといてね」
「…あぁ。じゃあまた明日来るよ」
夢路は弟に別れを告げて部屋から出ると、廊下の向こうからこっちにやってくる女性の看護士を見つけた。
「あら、望月さん。こんばんは」
女性の胸元には松木という名札がついており、夢路ににこやかに挨拶をしてすれ違おうとした。
「…松木さん今日雪路の腕に物を落とされましたよね」
「え…っ!?」
松木は足をピタリと止めて、驚いて振り返った。なぜ夢路がそれを知っているのか…というのが顔に現れていた。
「アイツは“あまり文句は言わない性格”なんで、俺から言わせてもらいますけど。うっかりじゃあ済まされないことってあるでしょう」
「…えっ、あ、あの…すいませんでした。…以後気を付けます…‥」
慌てて謝罪しながら頭を下げる彼女の反省した態度を見て、夢路はニッコリとほほ笑む。
「キツイ言い方をしてこっちこそすいません。他の患者さんもいて大変だろうけど俺にとっては大切な双子の弟なんです。あいつのことよろしくお願いします」
松木は夢路の笑顔に目を奪われて頬を赤らめた。
夢路は「じゃあ失礼します」と会釈をしてエレベーターに向かった。
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