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その週末。
夢路は郵送で依頼のあった品を鑑定し、隣で路代がそれをノートパソコンに鑑定報告書として入力していた。
「今回も遺品の鑑定か…」
夢路はネックレスのルーペで依頼品を見ながら呟いた。
「そりゃやっぱり死んだ人の“気持ち”を知りたい人の方が多いんじゃない?」
「俺が視えるのは“認識”ってだけで、感情が視えるわけじゃねぇけど」
過大広告だろあの看板っと自嘲した。
「でもその物を“どんな風に思ってた”かは分かるじゃん。可愛いとか、大切にしてたとかとかさ」
人は物を見る時に主観的にまず好ましいかどうか判断をする。そして重要かどうか、それがどんなものか。その意識は全て“レッテル”となり対象物に貼られる。
――ピンポーン。
「あれー?今日は来客ないはずなのに…」
「飛び込みの客か?」
路代が玄関に向かうと、「きゃっ!」という悲鳴が聞こえて、夢路は立ち上がった。
荒々しく扉を開けて入って来たのは昨日依頼のあった辻だった。
「よくも嘘をついてくれたわね!?」
「どうしたんですか?落ち着いて…」
夢路に食って掛かって来た辻は鬼のような形相で、思わず2,3歩後退してしまう。
「今朝主人と浮気していた女から連絡があったのよ!『死ぬ前に買ってもらうと約束していたネックレスは自分がもらう権利があるはずだからくれ』って!」
「え…マジっすか…」
まさかこの世にそんな顔の皮が厚い人間がいたとは…‥。後ろで妹も「あちゃー」という顔をしていた。
「何が『レッテルを見れば分かる』よ!この詐欺師!」
「いや…ホントは…最初っから浮気の……」
「お、お兄ちゃん!」
夢路の元に駆け寄って来た路代が、「ダメだよ最初っから分かってたなんて言ったら余計に逆上しちゃうよ!」と耳元で助言をくれた。
「じゃあ何て言えばいいんだよ」
「とにかく今回はお金を返して依頼を取り消そうよ」
なるほどと納得して夢路が返金を提案したが、辻は「それだけじゃ済まさない!」と怒りは収まらなかった。
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