③ 司法取引

2/5
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「捜査協力って…どういう意味だ?」 夢路は対面のソファーに座る近衞刑事に聞いた。 「昨日の事件ならもう俺が知ってることは全て話したぞ」 「それについて一つ確認したいことがある。なぜその紙袋が怪しいと思って中を確認したんだ?」 近衞の質問に夢路は眉を潜めた。 昨日受けた聴取でまさに先ほどの近衞と同じ問をされて、嘘の回答をしてしまった。 『その紙袋に“爆弾のレッテル”が貼られてました』……なんて言えるわけがなく、話したところで信じてもらえるわけもない。 『長時間並んでゲットした写真集を置き忘れて帰るなんてありえないから、なんか怪しいなぁと思って確認しました』とそれっぽく答えておいた。 「1階からは踊り場の紙袋の一部しか見えなかった。それが当日イベントで配布された紙袋だと分かったとしても、わざわざ踊り場まで上がって確認するほどの不審物だと思えないが」 「それは…その時はなぁ~んか虫の知らせというと野生の勘というか…。とにかく気になったんだよ」 「じゃあなぜ紙袋の中身が爆弾だと確信を持ったんだ?」 「え?そりゃ中を見て爆弾があったから…」 「…はぁ。お前はどうして自分が長時間も拘束されたのか分かってないのか?」 近衞がわざとらしくため息をついたので、夢路はムッとした。 「どういう意味だよ」 「お前は爆弾の知識があるのか?なぜ一目見ただけで爆弾だと確信したんだ?」 「え…?」 「監視カメラを確認したが、お前が階段にいた時間は数秒だ。一瞬袋の中を見ただけで爆弾だと確信を持てるなんて考えにくい。よほど思い込みの激しい人間か、それを置いた犯人以外には、な」 「はぁ!?まさか俺が犯人だって疑ってんのか!?」 夢路が思わず席を立ちあがると、机に脚が当たってコーヒーカップがカシャンと音を立てた。 でもそう考えると納得できる節がある。まずパトカーに乗せられて身柄を拘束された。次に数人の刑事に囲まれて監視カメラを確認し、免許証や親への電話をかけられて身元確認まで受けた。 今考えればいくら爆弾を最初に発見したからといってあんなに色々確認されたのは確かに扱いが酷かった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!