① 夢のまたユメ

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2020年春。 東京都内。 警視庁のとある一室。 扉が開かれて、中にいた人物が椅子から立ち上がった。 入室してきた男に、室内にいた若い男はびしりと背筋を伸ばした後、一礼してから挨拶をした。 「本日より捜査一課に配属されました、近衞斎(このえいつき)です。よろしくお願いします」 男性は近衞の近くまで歩み寄ると手を差し出した。 「君がFBIで研修を終えた近衞君か。私は君が配属される捜査一課・司法取引対策特別捜査係の係長をしている坂田(ばんだ)だ。よくサカタと間違われることが多いから、どっちでも呼んでくれていいよ」 坂田と近衞は握手を交わして、「じゃあ案内するよ」と部屋から廊下に出た。 「捜査一課で司法取引が使えるのは爆弾案件だけでねぇ」 「日本ではまだ租税や詐欺などの捜査二課が担当する事案しか法令で許可されてないんですよね」 「そうそう。やっと今年から特例措置で緊急性を要する殺人罪、また連続殺人なんかも司法取引が扱えるようになったのはいいけど、国家公安委員会の事前承認が必要っときたもんだ」 「まずはどの事案を上に挙げるかの選別をしないといけない…ということですか」 その対応にあたる為に新たに設立されたのが司法取引対策特別捜査係・通称『司取特捜係』である。 「特認が下りて初めて容疑者と弁護士を交えて司法取引が行えるわけだ。君のアメリカ仕込みの尋問テクニックには期待しているよ」 「ありがとうございます。坂田警部や皆さんの期待に応えれるように尽力して参ります」 「はっはっは。そんなに畏まらなくていいから。君はずっとアメリカ育ちかい?」 「いえ、日本の大学に在学中にアメリカに留学していました。日本に戻って入庁後司法取引制度導入に向けてアメリカで研修を受けてきました。本来であればもっと早く戻ってくる予定だったのに、アメリカでの引継ぎに時間がかかり、帰国が遅れてすいません」 「いやいや向こうさんの事情なんだから仕方ない。そうか、じゃあこっちの知り合いにはもう会ったのかい?」 「…‥いえ…‥」 近衞は足を止め、廊下の窓から外の風景に目をやりながら答えた。 「久しぶりに友人に会えるのが楽しみです」 その時の近衞の顔を坂田は見えなかったが、「そうかそうか」とにこやかに笑った。
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