③ 司法取引

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「現場到着後警察は店舗から脱出した人に事情を聞き、余りに出来過ぎた避難の呼びかけを怪しんだ。イベントを中止させる為に爆弾を置いてその第一発見者となりすまし大声をあげて会場を混乱させたのではないか、と」 近衞は夢路が疑われた理由を簡潔に説明した。 一つ目は、非常階段には監視カメラがなく、爆弾を誰が置いたのか特定できなかった。しかし階段入り口が写っているカメラには、夢路が右手に持っていた紙袋を一度階段に置いて来た映像は残っていた。 二つ目は夢路がすれ違って階段に上っていったという帽子を被った不審者について。カメラの位置からその不審者が紙袋を持っていたのか確認が取れなかったし、2階の監視カメラに再び姿が確認できた時にはもう何も持っていなかった。 三つ目は爆発物が紙袋に入っていたという証言は夢路一人のものであり、それが本当にイベント用の紙袋だったのか確証がない。 四つ目は夢路が騒動後に店から一度出た時には紙袋が2つしか持っていなかった。 さらに五つ目が爆発後も再度店に戻り店内を徘徊するという不審な行動を取っており、何か証拠を隠滅しようとしていたと疑われても仕方ない。 「まさか紙袋を置き忘れたり落としただけで犯人に疑われていたなんて…」 夢路は愕然として頭を抱えた。 「俺はまだ犯人だと疑われてんのか?」 「一応容疑者から外されたわけじゃない。だが現場から回収された爆発物の破片と、イベントの紙袋を科捜研で照合した結果一部が一致して、お前の証言の信憑性が高いことが証明されたし、お前の身元確認が取れているので、犯人の可能性は低いとはされている」 「はぁ…まさかこの俺が爆弾魔扱いを受けるなんて…」 夢路は脱力してソファーに座り込み、「それでお前は俺を逮捕しに来たのか?」とじろりと近衞を睨んだ。 「まさか。さっきも言ったが俺はお前が爆弾だと確信を持った理由を聞きに来たんだ。職業を調べたらこんな怪しげな事務所を経営していて驚いたよ」 「悪かったな怪しげでっ!」 「“モノの想いを”鑑定できる…。ネットで見た時は正直本当なのかと疑ったが、爆弾だと一瞬で見破ったのもその“鑑定能力”なのか?」 その言葉に夢路はギョッとした。まさか爆弾を見つけて避難を呼びかけただけでそこまで見破られるとは…。 夢路の能力のことを知っているのは兄弟の雪路と路代だけだ。
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