③ 司法取引

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両親ですら事務所の資金を出資をしてくれただけで能力のことは知らない。 「悪いけど俺の鑑定なんて詐欺みたいなもんだよ。依頼者の話に適当に合わせてそれっぽく鑑定してるだけだ」 「それにしてはネットでの口コミが凄くいいな。まるで霊能力者や透視能力者、サイコメトリー能力者のように言われていて、その筋じゃあ有名なんだろ?」 「そんなのたまたま当たった奴らが盛り上がって書き込んでくれただけだ。さっきのおばさん見ただろ。あれが俺の真実の姿ってわけさ」 「アレはあの客のプライドを守る為にわざと嘘の鑑定をしたんだろ?妹もそう言ってたじゃないか」 「は?あの内緒話まで聞こえてたのか?ってか、いつから居たんだよお前」 「俺は“耳は良くて”な」 ニヤリと不気味な笑いを浮かべて近衞が言った。 「…いやいや、地獄耳すぎるだろ…‥」 夢路が口元を引きつかせると、なぜか近衞は面白そうに笑った。 その顔は今まで見た彼の表情の中でリラックスしたものだった。 「何?まさか俺に何かを鑑定して欲しい…なんて言わねぇよな」 夢路は笑いながら冗談として言ったのだが、 「まぁ早い話がそうだ」 対する近衞は至極真面目にそう言った。 それに夢路が信じられないという表情をするのは当然だった。 「…おいおい。天下の警視庁捜査一課がこんなオカルトな力なんか頼るなんてなんかあったのか?警察なんて“物的証拠”が一番重要なんじゃねぇの?」 「お前は去年から始まった司法取引制度について知ってるか?」 「いや…ニュースでたまにやってるのを見る程度で詳しくは…」 「じゃあアメリカと違ってまだ日本では殺人罪には使えないのは?」 「それは知ってる。詐欺とか会社の組織的犯罪とかだけなんだろ?」 2009年に裁判員制度が導入されたのに続き、2018年から司法取引が遂に制定された。だが日本では対象となったのは銃器や爆弾、租税や詐欺などのみで、被害者意識の保護のために殺人罪には適用されなかった。 「でもなんだっけ…確か去年になんとかって法案が通って、今年から一部の殺人罪とかにも使える様になったんじゃなかったっけか?」 「……大雑把だがまぁ間違いじゃあない」 近衞は苦笑いしながらも夢路に分かりやすく説明してくれた。
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