④ 鑑定

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夢路は奥のオフィス机の上に置いてあるメモ帳と三色ボールペンを取りに行った。 記憶を思い返しながらメモに書き写し、「紙袋を鑑定して覚えてるのはこれだけだ。疑うなり信じるなり好きにしてくれ」と言いながら近衞に渡すと、彼は確認するように声に出して読み上げた。 「裏切者。嘘つき。ブス。返報。爆弾に…ABとは?」 「それなー、爆弾って単語に意識が取られて途中までしか読めなかったんだよ。ABの後になんかの英語が続いてたのは覚えてるけど…。あ、あと写真集ってレッテルもあったな。だからその紙袋がイベントのやつだってすぐに気づいたんだった」 「なるほど…。そのレッテルっていうのは犯人の“記憶”ってことか?」 「あ~いや…なんていうか…」 そうか、そこから説明しないといけないのかと夢路は頭を掻いた。 「俺が視えるのは人がモノに貼った認識や価値や印象なんだ。だから感情や記憶そのものが視えるわけじゃねぇよ」 「認識や価値…。過去を見れるサイコメトリー能力よりは、意識を読み取る霊視に近いってことか」 ふむと独り言を近衞は呟く。 「まぁ分かりやすく例にすると――」 夢路は自分の腕時計を外して机の上に置いた。そしてメモと三色ボールペンを近衞に渡して、この時計を見て考えたことや印象を書いて時計の上に裏返しに置くように指示をした。 近衞は赤色のインクを使って、メモに書いて指示通りに置いた。 今度は夢路がペンとメモを受け取り、緑色で書いて裏返しにして近衞のメモの隣に置いた。 「俺の能力ってのはこういうことなんだ」 夢路はそう言いながら時計の上のメモをひっくり返して表を向けた。 近衞が書いた赤色の文字は『高級ブランド。シルバー。夢路の時計。男物。高価』で。 夢路は緑色で『父からの贈り物。大学の入学祝い。弟とおそろい。ブルダリのブランド。お気に入り。シルバー』と書かれていた。 「このルーペで見ると俺にはこんな風に視えるんだ。同じモノでも認識ってのは人によって全く違うだろ?見た目の印象、好きか嫌いか、思い出や使用頻度とか」 「確かに…俺とお前じゃあ時計の色以外全く違うな…」 「その違いもこのメモみたいにレッテルの色やペンの色が一人一人違うから見分けることができるんだよ」 言いながら夢路は「そうだ」と思いだした。
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