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「俺のことは斎でいい。俺も夢路と呼ばせてもらう」
イツキ…。夢路には全く覚えがないが、昔彼のことをそう呼んでいたのだろうか。なぜか彼との過去を知ることを嫌がっている自分がいたが、夢路は思い切って聞いてみた。
「おま…斎って俺の能力のこと知ってたのか?」
それなりに能力への確証がないと捜査に使おうなんて思わないはずだが、能力のことを打ち明ける程仲が良かった友人を忘れるはずがない。
「俺…そんなにお前と仲良かったのか?」
「…同じサークルの友人だったってだけだ。能力のことは…」
近衞は突然黙り込んでしまい、夢路は横を向いて彼を見た。近衞は赤信号で車を停めると、ハンドルをぐっと力強く握った。
「お前に相談を持ち掛けられたことがあったけど…俺はその時信じてやれなかった」
前に顔を向けたまま焦点が定まらずに遠くを見つめる近衞は、
「そのせいであの事件が……」
ボソリと呟くように言った。
「え?」
信号が青に変わったのに近衞は遠くを見たままで。
―――プァー!
後ろの車のクラクションで、近衞ははっと我に返ってアクセルを踏んで車を走らせた。
「大学時代に信じてやれなかったから俺達は自然と連絡を取らなくなった。だから今度会った時はお前の特別な力を信用しようと決めてたんだ」
夢路はその話を聞いてもやはり彼を思い出せなかった。でも彼が嘘をついているようには見えない。
「そうか…」
夢路はそれだけを呟くと、あとはお互い気まずい雰囲気の中沈黙していたら、車は目的地に着いた。
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