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都内のオフィスビルの上層階の会社を訪問し、応接室に通された。ドアの前まで来ると、
「あ、悪い。弟からの電話だ」
夢路はスマホを上着のポケットから出しながら、廊下の奥に進んでいった。その後姿を近衞は眉間に皺を寄せて不審そうに見ていた。
「すいません。遅くなりまして。あの…刑事さん?」
近衞は話しかけられたことにすぐに気づけずにはっとして振り返る。
「あ、あぁすいません」
容疑者である箸本に案内され応接室に入る合間にも、近衞はスマホで話をしている夢路の姿をチラチラと横目で見ていた。
二人は対面でソファーに座り、お互いに挨拶をする。
「初めまして。捜査一課の近衞です。ご協力感謝します」
「いえ、箸本と申します。お話を聞きたいとのことでしたが…」
ガチャっと音を立てて、電話が終わった夢路が部屋に入って来た。
「斎悪い…と、もう来てたんだ」
夢路は近衞の隣まで歩いて行く間に、彼があの“爆弾”のレッテルの可能性が高い男かと、夢路はじっくりと観察した。
確かに身長はあの帽子の男と同じぐらいだし、背格好は似ていたが、あいにく顔は覚えてないので彼を見たところで犯人だとはっきりと断定は出来なかった。
だが夢路を見た途端、箸本の顔には明らかな動揺が現れて、書店ですれ違った夢路の顔を覚えていると確信した。
「どうかしましたか?」
「あ…いや、この方も警察の方なんですか?失礼ですがそうは見えなかったので驚いてしまいました」
確かに夢路は長髪に茶髪だし、首から下げているルーペも一見すると派手なネックレスにしか見えない。シックなスーツに身を包んでいる近衞の隣にいると不釣合いな二人組だった。
「いえ、警察ではないですが“事件関係者”です」
「あ、そうなんですか…」
額の汗をポケットから取り出したハンカチで拭き、近衞と二人っきりだったときの余裕ある態度と違い、明らかに動揺を隠しきれていなかった。
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