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彼女がそう思うのも無理はない。
夢路は20代半ばにしか見えないし、髪も茶髪で長く、服装も若者のそれで一見するとホストや芸能関係と思われても仕方がない。
「どうぞおかけ下さい。路代、お客様にコーヒーを」
女性は辻(つじ)と名乗り、夢路の対面に座った。
「“モノの想い”を鑑定できるって本当なんですか?」
「えぇもちろん」
「あなたが本物かどうかこの目で確かめさせてもらいたくて今日は来ました。もし詐欺ならお金はお支払いしませんから」
「別に構いませんよー」
“鑑定”を疑われるのはいつものことで、それが本物であれば誰も文句を言わずに金を払ってくれるのも毎回の流れだ。
辻は高級ブランドの鞄から箱を出して机に置いた。
「“鑑定”して欲しいのはこれです」
包装紙には包まれていないものの、箱の雰囲気からそれが誰か宛のプレゼントであるのは分かる。
マダムが誰かからもらった物なのか…。
夢路はそう推測しながらも箱を手に取り、「箱を開けても?」と確認を取ってから蓋を開けた。
「わぁーダイアンの新作ネックスレスだー」
珈琲を運んできた路代が箱の中を覗き込んで来た。
その言葉に女性がピクリと反応したのを夢路は見逃さなかった。
路代も知ってるブランド…ねぇ…。
「おい、邪魔すんなよ」
「えー」
路代は不満げに頬を膨らませたが、辻がジロリと彼女を睨んだので慌てて部屋の奥のオフィス机に戻った。
夢路は首から下げているオシャレな形のルーペをネックスレスにかざして“視た”。
ルーペを動かしてネックレスを上から下までゆっくりと。
まるで本当の鑑定士のように。
夢路が時折ルーペを止めて何かをジーと見つめているのを、辻は緊張した面持ちで見ている。
夢路はルーペから視線を辻に戻してゆっくりと口を開いた。
「これは…亡くなったご主人の遺品ですか。これが“誰への贈り物”なのかを知りたいんですね?」
下から覗き込むように問いかけると、辻の表情が強張る。
「ど、どうして…」
「貼られている“レッテル”を見れば分かります」
「え?」
得意げに言った夢路の発言の意味が分からず辻が聞き返したが、夢路は言葉を次々と紡ぎだす。
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