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辻は通常の相談料と鑑定料に“色を付けて”支払いをすませ上機嫌で帰って行った。
路代はその金を金庫にしまいながら、夢路に話しかける。
「さすがお兄ちゃんにかかればあっという間に解決だね。辻さんも喜んで報酬をはずんでくれたし」
「あ~あんなの嘘だよ。アレは奥さんの疑い通り“浮気相手へのプレゼント”だ」
「えぇー!?何で嘘なんてついたの?」
「真実を言ったって誰もうかばれねぇだろ。皆が幸せになれる嘘ってのも必要なんだよ。奥さんもご主人の疑いが晴れて、俺達もお金多くもらえてウィンウィンだろ?」
「そんなの…“鑑定士”としてずるくない?」
「別にモノの“価値”を知りたいんじゃない。占いと一緒で“悩みを解決”したくて依頼をしてきてんだ」
「なんか…詐欺師みたい…」
「ならお前『あんたはブスだから結婚は一生出来ない』って言ってる占い師見たことあるか?適当にお客様のご機嫌取っていい口コミ流してもらってもらわねぇと」
「うわぁ~大人って汚いなぁ…」
「あ…電話だ――」
「え?」
夢路はズボンからスマホを出して耳にあてた。
「よう雪路。え?ブックス書店で漫画買って来いって…。あぁ~今日お前が好きな漫画の発売日か」
夢路は事務所にかかっているカレンダーを見てから時計を見る。
「路代、今日はもう来社予定はないよな?」
「え?あ、うん……」
「じゃあこれから…は?3店舗も?めんどくせぇなぁ…。分かった分かった。買ったらそのまま見舞いに行くよ」
スマホを耳から離してポケットにしまい、ソファーから立ち上がる。
「雪路のやつに買い出し頼まれたから俺は出るわ」
「じゃあ、郵送での依頼分はこの棚に置いとくから」
「あぁ分かった」
夢路はハンガーにかけていた上着を羽織り、財布とスマホをズボンのポケットに入れるとと「じゃあな」と事務所の扉を明けて出て行った。
一人になった事務所は静まり返り、路代は兄が立ち去った扉をどこか不安そうに見つめていた。
「…‥お兄…ちゃん……」
ため息のように呟いた声は、沈黙の中に掻き消えていった。
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