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本編
「あなたっていつもそう。大事な決断を後回しにしてばっかりだから損するのよ」
「まぁ……、そういう星なんだろうな」
スピーカー越しの彼女の声には、例えるなら、昔食べた「もんじゃ焼き」とやらのような倒錯ぶりがあった。
赤、白、緑、その他もろもろ。具材という具材が混ぜ合わさって、一つの調和に達しているような、そんな狂騒的なもの。
僕の身を案じる不安、突飛な状況による混乱、恋愛に起因するやきもち。両手では数えきれない感情をミキサーにかけて、シェイクして、トニックウォーターで割った先が、今の落ち着き払った声なのだろう。
僕はといえば真っ赤に染まる回転灯や、火花をまき散らすコード類や、どこかで高圧ガスが噴き出てくる音や、呼吸が苦しいヘルメットや。全部描写しようと思えばその間に「時間切れ」を迎えてしまうほどの状況なんだと思う。
手元にはお弁当箱大の「心臓」があり、右手のニッパーを手離せずにいる。心なしかカタカタと持ち手は震えていた。
お弁当箱の上部から全体の4分の一ほどのスペースに、赤色の液晶文字が浮かんでいた。パネル芸のように赤と茶の線が明滅し、数学的摂理に則ってカウントが数え降ろされている。起爆コード、00:00に向けて。
無機質な電子音が死神の足音となりて、一歩、また一歩と歩み寄ってきているイメージがあった。
9割以上の解体が終わったこのお弁当箱爆弾の構造上、あとはこの液晶と信管を繋ぐコードのどちらかを切ればいい。赤と青、二つのコードは片方は爆弾の神経で、片方は緊急起爆スイッチを兼ねたダミーという古典的な罠。
ダミーを切ってしまえば建造物ごと私は爆散してしまうだろう。最近では両方ともダミーというパターンもあるようだが、伝統的な手段を好む今回の犯人に関して、それは可能性として排除していた。
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