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「今日は帰って来ないんでしょ?」
「うん……そのつもり」
「程々にしときなさいよ。いやだったら嫌だって、ちゃんと伊予柑に断わりなさい」
「そ、そんな……わ、分かってるよ」
あからさまに忠言されては居た堪れない。羞恥に顔を染めうつむくぼくを、姉さんはふんと鼻であしらい真彩ちゃんと式場をあとにした。
綾乃さんは理人さんと腕を組み、弓弦さんと慎弥先輩は喧嘩をしながら、それぞれ翡翠の間から退場する。いつの間にかミッキーのすがたもなく、参列者も帰っていった。
残るはぼくと伊織さん、それから……。
「にゃにおう! おれはまだ、秋良を諦めてなどおらん。隙あらばいつでも、かっさらってゆくぞ!」
「はいはい、隙が見つかるといいね」
「にゃにおう!?」
「もうふたりとも、いい加減にしてください!」
さすがに度が過ぎると、あいだを割って入り喧嘩を仲裁する。
「ああ、ごめんね。無駄なことに時間を取られて、秋良を待たせてしまったね」
「無駄とはなんだ、無駄とは! ぐぬぬ……秋良、おれを一緒に帰るぞ」
「寝言は家に帰って、マヌケなインコにでも言いな」
「ちょっと、やめ……痛い痛い」
左腕を伊織さん、右腕を基睦さんに取られると、ぼくは綱引きよろしく彼らに引っ張られる。そこへ息を切らした駆が、ナイスタイミングで現れた。
「ああ、いたいた。やあ、参ったぜ。あいつらマジしつけえの、って、何してんだ?」
「ああ駆、いいところに。助けてよ」
「はあ? 冗談だろ。もう俺クタクタだっつの」
心底嫌そうな顔をする駆は、「それぐれえ、自分で何とかしろ」とこぼし、ぼくを残して去ってゆく。
「そんな……待ってよ――ッ!」
これも一種のまつりの後か。
ぼくの悲痛なる叫びだけが、虚しくも式場内に響きわたり……オチがついた。
act.1 Promise ぼくの気持ち / end
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