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そりゃあ離婚だなんだと自分勝手なことばかり言った母親に会いたくない気持ちはわかるし、今は2人で平和に暮らしている。
そこにまたまた自分勝手に会いに来た母親に『邪魔』と言うのはわかるが、『離婚してくれてありがとう』は引っかかった。
それに離婚してから少し変わった娘の行動を思い出すと、不安を感じずにはいられなかった。
「ちょっと、聞いてるの?ねぇ、ちょっと、まさか…!」
「おい、変な想像するな。何もないよ。」
「だったら、あれはなんだったのよ。」
「おまえに会いたくなかったんだろ。散々嫌な思いさせられたんだから、嫌みの1つや2つ言いたかったんだろ。」
そう言うと何も言えなくなった妻は、納得していないようだけど電話を切った。
あぁ、家に帰る足が重い。
玄関のドアの前で大きな溜め息をつき、ドアノブをまわした。
「ただいま。」
そう言うと、いつものように走って玄関に来る娘。
「おかえりなさい。」
「今日、お母さんが来たんだって?」
俺のビジネスバッグを持って歩く娘の背中に話しかけると、ピタッと足を止めた。
「………。お母さん、何か言ってきたの?」
「あぁ、まぁな。菜々美に追い返されたとか、…変なこと言われた、とか。」
「………。」
娘は何も言わず、振り返ることも動くこともない。
沈黙が痛かった。
俺は堪らず口を開いた。
「菜々美…?」
「お父さんは、私のことどう思ってる?」
「どう思ってるって…。大事な娘だと思ってるし、すごくいい子に育ったとも思ってる。自慢の娘だよ。」
「お父さん…、ごめんなさい。私…、全然いい子なんかじゃないっ。」
震える声で話す娘は、俺の方を見ようとしない。
俺は娘に近づき、そっと肩に手を乗せた。
すると涙が溢れた大きな瞳で、俺のことを見上げた。
「私…、お父さんのことが好きなの。」
そう言って俺の胸に顔を埋めて、力強く抱きついてきた。
不安が的中し、目の前が真っ暗になる。
息苦しくて鼓動が早くなり、全身から血の気が引いた。
どうして?
いつからだ?
娘はどうしてそんな思いを抱いてしまったんだ?
疑問ばかりが頭を巡るが、答えなどでない。
娘の気持ちに応えることなど出来ない。
どうしたら以前のような親子関係に戻れるか必死に考えた。
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