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冬が過ぎて春が来る頃、僕はまたあの川沿いの道を
自転車で通った。
春の日差しは暖かかったケド、相変わらず生き地獄は
続いていて、僕は只「生き残っている」だけだった。
カーブしている道を走って、パッと目に飛び込んで来た
あの光景を、僕は生涯忘れないだろう。
それはそれは見事な満開の桜が咲いていた。
「ああ、この木は桜だったんだ」
自転車から降りてその大木を見上げた時、久しく
枯れていた涙がボロボロッと流れた。
「来年もこの桜が見れたら素敵だよな」
それまで死ぬコトと裏切ったヤツに復讐するコトしか
考えられなかった頭の中が、鮮やかなピンク色で染まって
行くのをハッキリ感じた。
あれから15年が経って、僕は今も生きている。
あの満開の桜を見てから崩壊した心が段々と戻って
来て、美人で優しい彼女とも運命的な出会いをした。
過酷過ぎる試練だったケド、乗り越えたご褒美なのか、
メチャクチャ頭が良くなった。今ではどんな難解な暗号も
スルスル解けるし、日本史の謎も片っ端から解けて、
去年から歴史雑誌に「本能寺の変の真相」を連載している。
それが終わったら「桶狭間の戦いの真相」の連載が待ってる。
あの時僕が死を選んでいたら、この400年間誰も解けなかった
二つの謎は永久に解き明かされるコトは無かっただろう。
多分織田信長が「生き残ってオレの無念を晴らして欲しい」
って助けてくれたんだなと思う。
「思いっ切り幸せな人生を送る」……それが僕を深く傷付けた
ヤツへの正しい復讐の仕方。
本気で自殺と向き合って死を選ばなかったからこそ、僕は
残された人生でいつも「楽しい話」を書く。
それは、僕が桜に励まされた様に、苦しくて辛い誰かの心に
「希望を持ちなさい」と伝えたいからなのです。
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