1 生贄の少女

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* 「――シュギル様」 「これは、ミネア様。ただいま戻りました」 カルスとともに王宮に戻れば、侍女を従えたミネア様と庭園で出くわした。 父上のために摘んだばかりなのだろう、正妃というこの上ない身分であるのに、自らの手にも薬草を入れた籠を持っておられる。 愛情深く、気さくな義母上に丁寧に頭を下げ、挨拶を告げた。 「母上、僕も戻りましたよ」 それまで横に並んでいたカルスがぴょんと一歩前に出て、後ろで手を組んだ姿勢でミネア様の持つ籠を覗き込み、満面の笑みを見せた。 「あら、わざわざ言わずとも、ちゃんと見えていますよ。 剣のお稽古をすると言っていたはずなのに、何時間も手ぶらで姿をくらませていた嘘つきな子のことならね」 「……っ、それはっ……」 しっとりと微笑みながらのお母上の御言葉にカルスが口ごもり、半歩下がった。 ……うん。確かに、手ぶらではこのように言われても仕方ないな。 溢れんばかりの愛情を注いでくださる代わりに、怠惰な者には時折ちくりと棘を刺し、反省を促す。 さすが、ミネア様だ。
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