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「――シュギル様」
御前を下がる直前、ミネア様から声がかかった。
「あの子では、あなた様のお相手を充分に務めることはできないでしょうが、どうぞよろしくお導きくださいませ」
「……っ、ミネア様! どうぞ頭をお上げください。私などにそのようにされてはっ……」
「いいえ。あの子、天真爛漫と言えば聞こえは良いですけれど、堪え性がないだけなのは良く存じておりますの。
出来の悪い弟ですけれど、しっかりと鍛えてやってくださいませ」
正妃の身分の御方に頭を下げられ、こちらこそが申し訳ない気持ちになったが、カルスと同じ瞳の色を煌めかせて茶目っ気たっぷりに言い添えられた言葉に、私も笑顔を浮かべた。
「カルスは、とても可愛い弟です。
では、ついつい手加減してしまいそうですが、お母上の御言葉では仕方ありません。
ぐっと堪えて、鍛えることにいたしましょう」
「まぁ! うふふっ。是非、よろしくお願いいたします」
「はい。それでは、これにて」
再び礼をし、今度こそ御前を下がる。
そのまま駆け足で奥庭を目指した。
『先に行って待っている』と言った手前、急がねば。
張り切っていた満面の笑顔のカルスの姿が脳裏に浮かび、口元がふっとほころぶ。
素直で率直なところが美点である弟と過ごせるこれからの時間が、実は私もとても楽しみなのだ。
ふふっ。剣の稽古が嫌にならない程度に、手加減してやることとしよう。
イラスト:南城千架さま
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