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――陽が傾き、新たに発現した湖に、夕空の赤銅色が、たゆたう細波を燃え立たせている。
それほど時を待たずして、低空に宵の明星がその姿を現すことだろう。
かなり、ここで時を費やしてしまった。
名残惜しいが、そろそろ退出しなければ。
「もう、大丈夫か?」
そう思い、顔を伏せているルリーシェに声をかけた。
「はい。あの、お見苦しいところをお目にかけまして……。
私、お恥ずかしいです」
「そのようなことを気にする必要はない。君は、何も悪くない。
むしろ、私の傲慢な恣意を、君に押しつけたようなものなのだから」
つと、指を伸ばした。
小さな声で恥じらい、申し訳なさそうに目を伏せるルリーシェへと。
つい先ほどまで、涙がとめどなく溢れ出ていた目元。
それから、透明な雫がはらはらと伝っていた頬へ。
『――王子様、お願いです。どうか……っ』
私が、泣かせてしまった。
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