1 生贄の少女

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私の発言に軽く溜め息を吐いたロキだったが、髪を梳く手は止めない。 「また、『面倒くさい』ですか。 シュギル様も、もう24歳におなりなのですから、そんなことを言ってもいられないのですよ」 あぁ、またロキの説教が始まったか。 「面倒なものは面倒なのだ。そういうお前も、いまだ独り身ではないか」 顔を傾け、ロキと目線を合わせてから顔をしかめてみせたが、それに怯むロキではない。 「私とあなた様とでは、立場が違いますでしょうに。 全く……こう申し上げては失礼ですが。父王陛下は、シュギル様のお歳の頃には、既に手当たり次第だったと伺っておりますよ。 血を分けた親子でありながら、正反対ですねぇ」 理知的な灰色の瞳を細め、残念そうな声を落としてくる。 「らしいな。だが、私は私だ。 どの女性にもそのような気持ちにならないのだから、仕方あるまい」 「まぁ、手当たり次第というのは困りますが。 シュギル様も、父王陛下に倣って、女官に子を産ませてもよろしいのでは?」 「ロキっ! 口が過ぎるぞ」 「……失礼いたしました。不敬な物言い、お許しください。 髪も整いましたので、今宵はこれにて下がらせていただきます」 私と同じ黒髪。だが、私と違ってごく短く刈った短髪を俯けて、ロキが出て行く。 しかし、その背中にかける言葉が、今の私には浮かばない。 ロキは、何も悪くはないのに。 父上が、母上の女官に手をつけたこと。 そして、子を産ませることになった女官がミネア様で、その子がカルスであることなど、この国で知らぬ者は居ないのだから。
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