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「……左様でございますか。
では、御決心にお変わりはありませんか?」
少しの間をおき、ザライアが、私の決心を問い質してくる。
真暗き深淵の闇を思わせるような声音だと思った。
けれど、その感想は胸にとどめ、私はたったひとつの答えのみを口にする。
「変わらぬ」
愚問だ。この決心が揺らぐわけがない。
「……ふっ。既に覚悟を決めている者には、何を言うても同じか。
まこと、人の子というものは、可愛らしくも厄介なものよ」
「……ザライア?」
決意を込めた私の返答に、ザライアの呟きが返ってきた。
丁寧な口調を脱ぎ捨てた、年長者が若造へと向ける嘲りを含んだ言葉。
老獪さと嘲弄が入り混じった声が。
しんと静まった室内――――身を包む空気も、ひやりとした冷たいものに変化したように感じる。
それほどに、今のザライアから放たれてくる気は冷淡で。
突然変貌した冷々たる威圧感は、びりびりと、痛いほどに肌を刺してくるものだった。
このようなザライアは、初めて目にする。
目の前にいるのは、本当にザライアだろうか?
……これは、いったい“ 誰 ”だ?
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