6 覚悟の重さ

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「さて、ドラシュの息子、シュギルよ。驚くのも道理だが、いつまでも不抜けていられても困るのだが?」 微笑みを形作った、紅き唇。 そこから放たれた艶声には、依然、揶揄めいた響きが含まれている。 が、私を見つめる琥珀色の瞳には、見る者をひやりとさせる硬質な冷たさがひと筋、浮かび上がっていた。 「……っ、申し訳ございません!」 視線に鋭く乗せられているその光を見て取り、即座に(こうべ)を垂れる。 確かに、不抜けている場合ではない。 この存在が、ここに至って私にその正体を晒した理由は、ただひとつだからだ。 「直接、御言葉を返す無礼と、これまでの数々の非礼、重ねてお詫び申し上げます。 お赦しいただけますでしょうか」 「ほぅ。そなた、もう気づいたか?」 「はい、大地の女神様」 頭を垂れたまま、恭しく肯定する。 気づくも何も、ひと目でそうと見て取れていた。 うねる黒髪が縁取る、真白き(かんばせ)を目にすれば、一目瞭然であったからだ。 長きに渡り言い伝えられている、(いにしえ)の伝承。 我ら王家の祖、ギルトゥカス英雄王の伝説とともに語り継がれている神の御姿と全く同じ特徴を、目前のこの存在は(ゆう)している。 フードを上げ、現れた、白皙(はくせき)の容貌。 その眉間の上には、創造神、すなわち大地の女神と同じ『第三の目』が真白き肌をぱくりと割り、琥珀色の光輝をそこに煌めかせていた。
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