6 覚悟の重さ

56/58
前へ
/279ページ
次へ
「さて、この姿は、(われ)現身(うつしみ)をとる時の姿であるが、このことは次席の祭司長しか知らぬ」 なるほど。つまり、他言無用だと言外におっしゃられておられるのだな。 創造神が『ザライア』として存在することは、神殿ではひとりしか知らぬし、あとは父王と私だけが知る秘密なのだ、と。 「承知してございます。決して他言はいたしませぬ」 伝説で伝え聞くところによれば、大地の女神様の本体は、巨大な竜。 七色に輝く鱗を持つその姿は、その名の通りユーフラテスや山々を覆い尽くすほどの巨大さだとか。それに比べれば、あの多頭竜が小さな子どもに見えてしまうだろう。 その本体をこの美女の身の内に封じているのだとはとても信じられないが。その額に煌めく第三の目は隠しようもなく、それ(ゆえ)に普段は黒衣のフードを目深(まぶか)にかぶり、老人の声に変えておられるに違いない。 「尊き御姿をお見せくださったのは、私が聖水を望んだが故のことでございましょうから。 努々(ゆめゆめ)、口の()にすら上らせませぬ」 「ふむ。(さと)い者を相手にすると、話が早くて助かるな。 では、次の話題に移るとするか――――シュギル、こちらを」 「……っ、それは……!」 『こちら』と口にされ、上向けられた女神様の手のひらの上。そこに起きた現象に、思わず声があがった。 ぽうっと真白き光が浮かび、次の刹那、その光の結晶が小さな瓶に変わったのだ。 ゴクリと、喉が鳴った。 「……聖水、で、ございましょうか?」 神の御業(みわざ)を目の当たりにし、私らしくもなく喘ぐように尋ねれば。 「そうだ。そなた、これを(ほっ)していたのであろう?」 あっさりと、答えが得られた。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加